弁護士コラム

相続法改正②(配偶者の居住に関する権利)

1.配偶者居住権に関する規定が新設されました(新設の背景)

(1)2018年の民法改正では、高齢化社会の進展を踏まえ、遺族として残された高齢な配偶者(相続人)の生活に配慮した権利として「配偶者居住権」に関する規定(1028~1041条)が新設され、2020年4月1日から施行されています。

(2) 高齢となって配偶者に先立たれた方は、配偶者の他界(相続)後も引き続き従前の住居で生活することを希望される場合も多いかと思います。

しかし、住居(建物)が亡配偶者(被相続人)の所有物であった場合には、相続財産として遺産分割の対象となります。

そして、従前の規定でも、配偶者において、①現物分割や②代償分割(他の相続人に相続分相当額の金銭を交付する方法)によって住居(建物)を単独で相続したり、③共有分割(他の相続人と相続分に応じた共有物とする方法)後に他の相続人との間で賃貸借契約等を締結したりすることで、従前同様に居住を継続できましたが、他の相続人において、④換価分割(相続財産を売却等して換金して現金で分割する方法)を希望する場合や、配偶者において、⑤代償分割における代償金を交付できるだけの資力がない場合などには、住み慣れた住居から退去せざるを得ないことがありました。

(3)そこで、今回の民法改正では、一定の条件のもとで、残された配偶者に従前の住居(建物)での居住継続を認める「配偶者居住権」の規定が新設されるに至りました。

2.配偶者居住権とは?

(1)「配偶者居住権」とは、一定の条件(後述)のもとで、相続人である配偶者に、終身(自分が死亡するまでの間)または一定の期間、無償で、相続財産である従前の住居(建物)での居住継続を認める権利であり、賃借権(無償ですが)に類似した法定の権利です。

なお、配偶者居住権は他人に譲渡することはできませんが、住居(建物)の所有者の承諾があれば、第三者に住居(建物)を賃貸等することもできます。

(2)また、「配偶者居住権」が認められない場合でも「配偶者短期居住権」が認められる場合があります。

「配偶者短期居住権」とは、一定の条件(後述)のもとで、相続人である配偶者に、被相続人(亡配偶者)の死亡時から遺産分割協議が成立して住居(建物)の所有者が確定等するまでの期間、無償で、相続財産である従前の住居(建物)での居住継続を認める権利であり、使用借権(無償の貸借)に類似した法定の権利です。

3.「配偶者居住権」が認められる場合

(1)相続財産である配偶者の住居(建物)について、被相続人(亡配偶者)の死亡時において、①被相続人が単独で所有していた場合、または、②被相続人と配偶者の2人で共有していた場合であって、

(2)次のいずれかの方法で「配偶者居住権の取得」が定められた場合です。
①被相続人(亡配偶者)による遺言など(遺贈や死因贈与)
②共同相続人全員による遺産分割協議での合意
③家庭裁判所における遺産分割調停での合意や審判

4.「配偶者短期居住権」が認められる場合

(1)配偶者が、相続財産である亡配偶者が所有していた建物に、被相続人(亡配偶者)の死亡時において無償で居住し、現在も無償で居住している場合です。

(2)もっとも、配偶者において、自己に不利な遺言書を隠していた場合などの「相続欠格事由」に該当したり、被相続人の生前の意思で「相続廃除」されるなどして相続人の資格を失った場合には、この権利を取得することはできません。

5.最後に

今回の「配偶者居住権」が認められるのは、民法改正のうち同規定の施行日である2020年4月1日以降に相続が開始(被相続人が死亡)した場合です。また、対象となるのは「法律婚の配偶者」だけであり、内縁の配偶者には認められていません。

実際の事案で「配偶者居住権」が認められるのか、認めてもらうためにはどのような手続を取る必要があるのか、認められない場合には他にどのような解決方法があるのかなど、お悩みやお困りの事がありましたら、弁護士会の法律相談センターでご相談ください。