弁護士コラム

労働災害

1 労働災害について

仕事をしていると、業務に絡んで怪我や病気をすることがあります。

例えば、

  1. 通勤中の事故
  2. 職場で作業中の事故
  3. セクハラ・パワハラによるストレス性の精神疾患
  4. 過労による脳・心臓疾患

など、職種によって怪我や様々な病気に掛かることがあります。

このように仕事中や通勤中に怪我や病気をした場合、皆さんはどうしますか?
特に、怪我や病気の結果、入院などのために仕事を休む必要が生じた場合、収入面での今後の生活に不安を感じられる方も多いと思います。

以下で、ご説明するように、業務中に怪我や病気などをした場合には、労働者災害(労災)として各種給付を受けられる可能性があります。

2 労災保険給付

労災保険給付は、労働上の災害に遭われた方や遺族の方が労働基準監督署に申請を行い、労働基準監督官が調査を行った上で、相当と認められる場合に事案に応じた相当額の支給が決定されるものです。「相当と認められる場合」とは、後述の「怪我や病気などと仕事との関係性」が認められるなど、いくつか条件があります。

労災保険給付には様々な種類があります。

例えば、

  1. 病気や怪我に伴う医療費の給付(療養補償給付)
  2. 就労不能に伴う賃金に代わる給付(休業補償給付)
  3. 後遺障害に伴う給付(障害補償給付)
  4. 残された遺族の生計維持を目的とする給付(遺族補償年金)

などがあります。

3 過労死・過労自殺について

怪我や病気などと仕事との関係性(業務起因性)が明らかな事案であれば、業務上の災害としてスムーズに労災認定・給付を受けることができますが、これが過労による死亡や自殺の場合には、特に業務起因性を証明することが難しいという問題があります。

そこで、過労死・過労自殺については、申請者の立証の負担を軽くするとともに、全国的に統一的な判断をするための「行政認定基準」が存在します。
(この認定基準の詳細については、厚生労働省【労働基準情報:業務上疾病の認定等】が公表していますので、そちらをご覧ください)。

例えば、脳・心臓疾患では、発症前1か月間に概ね100時間の残業時間がある場合、又は、発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たり概ね80時間を超える残業時間がある場合などは、過労による脳・心臓疾患を起こす可能性があるとして、労災と認める取扱いになっています。

このように認定基準を満たすか否かが労災申請段階では重要となります。

もっとも、認定基準はあくまで申請者の負担軽減と統一的な行政処理のために作成されたものですから、必ずしも同基準・判断が正しいとは限りません。
ですから、労災として認められないとの行政庁(労働基準監督署など)の判断に不服があれば、審査請求や再審査請求のうえ、裁判所に行政庁の判断(業務外の認定処分)の取り消しを求める訴訟を起こすことができます。

4 損害賠償請求について

労災保険制度は、労働者の業務上の怪我や病気などについて、使用者の責任の有無にかかわらず支給される点に特色があります。
使用者の責任の有無とは無関係ですから、支給される費目の中に、いわゆる精神的苦痛を慰謝するための金額である慰謝料(使用者の不法行為責任が認められることが前提)は含まれていません。

もっとも、業務によって怪我や病気になった場合、その業務を命じた使用者側に何らかの責任が生ずるケースも多々あります。
その場合、労災給付とは別に、使用者に対して損害賠償を請求することができますし、その場合の請求項目には当然、慰謝料的な損害も含まれます。

5 まとめ

以上のとおり、皆さんが業務中に怪我や病気をした場合には、まずは労災申請をして、速やかに労災給付を受けることを検討してください。

労災申請がすぐに認められて給付がなされれば、収入面における一応の安心は得られます。労災申請が認められなかった場合、あるいは、会社に怪我や病気について責任があると考えられる場合には、不服申立てや損害賠償請求を検討してください。早めに手続きを行うことで権利救済を受けられる場合があります。

これらの手続きには期間の制限がありますので、もし、業務中の災害について労働基準監督署や使用者の対応・判断などに疑問を持たれたときは、ぜひ法律相談センターにて弁護士にご相談ください。