弁護士コラム

家族法改正①(養育費の履行確保)

 離婚をする際には多くのことを決めなければなりません。特に子どもがいる場合は、子どもの親権者や養育費について決める必要があります。しかし、離婚時に養育費について定めたのに、養育費が支払われなくなった、どうしたら養育費をきちんと払ってもらえるのか、という相談が寄せられることがよくあります。
 そのような問題を踏まえ、2024年5月に民法(家族法分野)が改正(2026年5月までに施行予定)され、これまでになかった「養育費に関する規定」が定められました。
 そこで、本コラムでは、民法および民事執行法で新たに定められた「養育費の履行確保のための規定」について、ご紹介します。

1 扶養の義務があることが法律で明確に規定されました

⑴ 子どもと離れて生活をしている親は、子どもと同居している親に対し、養育費を払うものとされていましたが、これまでは、その法的な根拠が法律の条文上で明確に規定されていたわけではなく、諸説論じられていました。
 今回の法改正では、親権の有無にかかわらず、父母それぞれに、子どもが自分と同じ水準の生活を保持できる程度の養育費を払わなければならない義務(生活保持義務)があることが法律で明確に規定されました。

⑵ 条文(改正後民法817条の12第1項)のご紹介

 条文では「父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢および発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。」と規定されています。

2 法定養育費制度が定められました

⑴ 協議離婚では、子どもの「親権者」を定めることは離婚の要件とされていますが、子どもの「養育費」を定めることは要件とされていません。そのため、これまでは、離婚の成立を急ぐあまりに、相手方と養育費の話合いを行わずに離婚し、後になって、養育費の支払いがなくて生活に困窮するということが多々ありました。
 特に、DV(家庭内暴力)や虐待などがある場合には、相手方と養育費の話し合いをすることは現実的に困難であることから、泣き寝入り的に養育費を諦める方も多いのではないかと思われます。
 そして、養育費の取決めをせずに離婚をした後、相手方に養育費の請求をしようとしても、相手方との話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に養育費の調停を申し立てるなどしなければならず、その手続に要する時間や費用などが負担で諦める方もいるかもしれません。

⑵ そこで、このような問題を解決するものとして、養育費について父母の協議がない場合に、補充的な養育費を定めるものとして「法定養育費制度」が新たに設けられました(改正法施行後の離婚が対象となります)。
 この制度は、養育費の取決めがなくても、子どもと同居している親が相手方に対して「父母の収入等に応じて国の基準(法務省令)で算定された一定の金額」を請求できるという制度です。
 この制度の新設により、改正法の施行(遅くとも2026年5月までに予定)後は、たとえ、離婚時や離婚後に相手方と養育費の定めを協議することができなかったとしても、法律上当然に、相手方に対して一定額の養育費の支払いを請求することができるようになりました。

⑶ 条文(改正後民法766条の3)のご紹介

 条文では「父母の一方であって離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うもの」は相手方に対して法定養育費を請求できるものとされており、法定養育費の始期は離婚の日で、終期は、①父母の協議により養育費について定めた日、②家庭裁判所の養育費の審判が確定した日、③子どもが成人年齢(18歳)に達した日のいずれかの早い日とされています。
 そして、法定養育費の金額については「父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に関する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額」とされました。

3 養育費の履行確保等を容易にする制度が設けられました

⑴ これまでは、たとえ離婚時に養育費の取決めをしたとしても、その後、現実には支払いを受けられずに経済的に困窮してしまうことが、離婚後の大きな問題の一つとなっていました。
 養育費を支払わない相手方から強制的に養育費を確保しようとしても、相手方の財産等の差押え(強制執行手続)を行うには、債務名義と呼ばれる権利義務の存在に関する公的な証明の書類、具体的には、①公証人役場で作成した公正証書(強制執行認諾文言付き)や、②家庭裁判所における調停・審判手続での合意書面(調停調書)・審判書などが必要とされ、請求をする側に大きな負担となっていました。

⑵ そこで、請求者側の上記負担を軽減し、相手方からの養育費支払(履行)の確保を容易にするために、養育費に「先取特権」と呼ばれる優先的に弁済を受ける権利が付与されることとなりました(改正後民法306条3号)
 そして、先取特権の効力により、上述の債務名義(公的な証明書類)がなくても、裁判所に相手方の財産等に対する強制執行(差押え)を申立てることができるようになりました。

⑶ また、養育費の金額は父母の収入を基準として決められることが多いのですが、相手方の協力が得られないと相手方の収入や資産の状況を知ることは困難です。
 そこで、養育費が問題となり得る調停・審判・訴訟手続において、相手方の収入等を知るための裁判手続(収入・資産情報開示命令制度)も新設されました。

⑷ その他にも、強制執行(差押え)に際しては対象となる相手方の収入や資産の具体的な情報が必要となりますが、これまでは相手方の同情報が不明な場合、裁判所に①財産開示手続(相手方に対するもの)や②第三者情報取得手続(相手方の給与情報を保有する市町村等に対するもの)を各申立て、③判明した収入や資産に対して新たに差押え手続の申立が必要でした。
 そこで、手続の負担を軽減するため、1回の申立てによって、上記①~③の手続が連続的に行えるようにし、養育費の履行を確保するための手続の利便性が向上されました。

⑸ 条文(改正後人事訴訟法34条の3)のご紹介

 条文上、養育費請求の申立てがなされている場合には、必要があると認めるときは、家庭裁判所は、相手方に対し、その収入および資産の状況に関する情報を開示することを命じることができることとされました。

4 おわりに

 今回、養育費の履行を確保するための多くの法改正が行われました。
 しかし、実際に養育費を支払ってもらうための手続きや、相手方の収入を知るための手続きなどは、専門的な知識や経験を必要とする面が大きいのが現状です。

 我々、弁護士は、法律の専門家として、今回ご紹介したような新しい制度も活用し、経済的な苦境にある子ども達を一人でも多く救うことができたらと考えていますので、お一人で悩まずに、お困りの方は法律相談センターまでご相談ください。